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2020/06/30
法務局における自筆証書遺言書保管制度
こんにちは!
司法書士法人府中けやき共同事務所の秋池です。
東京も夏日を記録する日が増えてきました。まもなく7月に入り、今以上に暑い日が続きそうですが、いつもの夏とは違いマスクを着用して過ごすことになりそうです。例年以上に熱中症への警戒が必要となってきますので、こまめな水分補給と休息を忘れずにこの夏も乗り切っていきたいものです。
さて、今月のブログでは7月10日からスタートする、法務局における自筆証書遺言書保管制度についてわかりやすく解説していきます。新しい制度によって自筆証書遺言の持つ利便性に確実性も付与された形になりますので、利用を検討されている方も多くいらっしゃることでしょう。新制度とこれまでを比較した上でのメリット・デメリットについてなど、基本的な部分を解説していきますので、どうぞ最後までお付き合いお願い致します。
制度の概要
今回解説する新制度は平成30年7月6日に成立した遺言書保管法を元にスタートする制度です。実際に法律の効力が始まる日(施行日)が今年の7月10日となりますので、法務局へ遺言書の保管をお願いする場合は、施行日以降となりますが、7月1日より予約の受付が始まります。
もちろん新制度が始まったからと言って、必ずしも遺言書を法務局で保管してもらわなければいけないわけではありません。今まで通り自宅での保管を行うことも可能です。実際に新制度を利用した場合との比較を図にしましたのでご覧ください。
新制度のメリット
上の図をご覧いただいてお分かりの通り、法務局(遺言書保管所)での保管を選択すると、家庭裁判所での検認は不要です。検認とは家庭裁判所にお願いして相続関係者の前で遺言書がどんな内容か一緒に確認してもらうといった作業ですが、実際に行われるまでに時間もかかりますし、関係者のスケジュールも合わせてもらう必要があります。
そうした手間をかけずに、遺言書の中身を確認できるわけですから検認不要は新制度一番のメリットと言えるでしょう。また、法務局で保管されるわけですので、紛失や改ざん、隠ぺいのリスクも無く、ほぼ確実に自筆証書遺言を残すことが可能となりました。
新制度のデメリット
新制度にもデメリットと言える点が四つ存在します。
一つ目は手数料の発生です。遺言書を預ける際や、一度預けた遺言書のデータを確認する場合(書いた方が存命中は書いた方以外見られません)、書いた方が亡くなった後遺族が遺言書を確認する場合もそれぞれ所定の手数料が発生します。詳しくは下記の表をご覧ください。
二つ目のデメリットとして、全国どこの法務局でも預かってくれるわけではないというものがあります。
まず、保管の申請をできる場所は遺言を書く方の住所地・本籍地・所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する遺言書保管所(法務局)になり、その中でも限られた法務局(本局・支局・出張所)のみで取り扱いが可能です。
例えば東京都の場合預かってくれるところは、本局・板橋出張所・八王子支局・府中支局・西多摩支局の5か所のみです。さらに、預かってもらう手続きをするためには、原則事前予約をしたうえで、必ず書いた本人が出向く必要性がありますのでお住まいの地域によっては、移動の手間と交通費の負担が大きくなってしまう方もいらっしゃることでしょう。
三つ目のデメリットですが、これはデメリットというより注意点です。
書いた方が亡くなった後、遺言書の原本はもらえません。代わりに手数料表にも記載のある遺言書情報証明書という原本のコピーが交付されます。原本が手元に無いことで特に不利益はありませんが、どうしても原本を家族に遺したいという場合、法務局保管はお勧めできません。
最後のデメリットとして、書いた方が亡くなった後、人によっては遺言を確認する手続きに使う添付書類を収集するまでに時間のかかる可能性が存在します。添付書類は次の通りです。
1.遺言者(書いた方)の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍)謄本
2.相続人全員の戸籍謄本
3.相続人全員の住民票の写し
戸籍や住民票といった言葉を聞くと、自治体の窓口ですぐに取得できそうなイメージもありますが、戸籍は今のところ本籍地でしか取得できません。地方で生まれ上京した方などは、本籍地を移さず生活している方も多いことでしょう。戸籍を取りに行くためにわざわざ地方へ出向かず、郵送で取り寄せることも可能ですが、それなりの時間はかかってしまいます。
何らかの理由があり、スピーディーに手続きをしたい場合、大きな障壁となる要素は多分に含んでいるのです。
自宅保管のメリット
続いて自宅で保管した場合のメリット・デメリットについても見て行きましょう。
自宅保管のメリットは何と言っても手軽に簡単に書いて残せるといったことでしょう。以前のブログで自筆証書遺言の書き方について解説しましたが、すべて手書きで無ければいけないわけでもありませんので、正に思い立ったその時に残すことが出来ます。もちろん自宅保管ですので当然手数料はかかりません。
自宅保管のデメリット
新制度のメリットでも述べた通り、自宅保管の場合は検認を受ける必要があります。当然ですが、検認を受けない自筆証書遺言は各相続手続きに使用できません。また、紛失、隠ぺい・改ざんのリスクは常に存在しますので、気軽に作成できる分それ相応のリスクもあるということになるのです。
自宅と法務局のどちらを選んでも注意していただきたいこと
自筆証書遺言は昨年の方式緩和により、とても気軽に利用しやすい遺言の書き方となりました。そして今回の新制度スタートにより、気軽さに加えそれほどの費用をかけず確実性の高い遺言を遺すことが出来るようになったわけです。
今までのように自宅に保管。確実性の高さを求めて法務局保管。どちらを選んだ場合でも一つだけ気を付けて頂きたい点があります。
「遺言書を(自宅の○○もしくは法務局に)預けてあるから万一があったら確認してね」
と一言ご家族もしくは財産を残したい方に前もって伝えておいてあげると良いでしょう。
自宅保管はもちろんですが、法務局保管の場合も最終的に財産をもらうことになる方が行動しないと何の意味もありませんし、書いた方の希望通りに財産が分配されない可能性もあります。そもそも遺言書を作成するということは、自分で苦労して築いた財産を誰かに受け継いでいってほしいから書くのです。書いて終わりではなく、「○○にあるからね」と伝えてあげることで、万一があった際に遺された方はスムーズに行動することが出来るのです。
また、今回解説した新制度は自筆証書遺言書を預かってくれるというだけです。法務局で中身を一緒に確認して書き方が間違っている部分を指摘してくれたりはしません(その遺言書の①本文・日付・氏名の自書、②押印、③加除訂正の方式が外形的に有効かどうかの確認は行われます)。さらに、具体的な内容について相談を受けたり書き方の指導もありません。せっかく遺言書を預けたのに、正しい内容で作成していない場合、何の効力も持たなくなってしまいますので、十分ご注意ください。
まとめ
新制度がスタートすることで、今までよりも確実性のある状態で自筆証書遺言を遺せるようになりました。しかし、解説させていただいたようにそれなりにデメリットも存在する制度です。
「早めに遺言を遺したいわけじゃないけど、紛失することなく確実に残る方法で、かつ費用があまりかからない方法ないかな?」
と思っている方にとっては利用をお勧めできる制度であると考えます。
逆に
「費用がかかってもいいからより内容について法律的に確実性が高く・相続開始後すぐに使える遺言がいい、自筆で文章を書いたり出かけたりは困難なので、できるだけお任せしたい」とお考えの方には公正証書遺言の利用も検討すべきと言えるでしょう。
いずれの場合でもその方の考え方・財産・遺したい方等によってお勧めできる制度は違いますので、不安がある場合は私たち司法書士へご相談頂ければと思います。あなたに合った方法をご提案させていただきます。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
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司法書士法人府中けやき共同事務所
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