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府中けやき共同事務所

2020/08/31

配偶者居住権の基礎

こんにちは!

全国的に残暑が続いておりますが、お変わりありませんでしょうか?
特に高齢者の方は知らず知らずのうちに熱中症になっていたということもあるそうですので、
こまめな水分補給とクーラーの使用で乗り切っていただければと思います。

さて、今月のブログでは昨年より順次施行されている改正相続法の目玉とも言える『配偶者居住権』について
司法書士の視点から分かりやすく解説していきます。
配偶者居住権は今年の4月より施行となりましたが、新聞・テレビ等でも大きく取り上げられていますので、ご存知の方も多いのではないでしょうか?

遺された配偶者が自宅に住み続けられる制度ということで、一見素晴らしい制度のようにも見えますが、ケースによっては慎重な判断が必要な場合もありますので、そこも併せて解説してまいります。今回もどうぞ最後までお付き合いよろしくお願い致します。




配偶者居住権ってどんな制度?


改めて本制度がどのようなものかについて簡単に解説します。下の図をご覧ください。

ケース①


 

夫婦と子ども一人の家族で、子どもはすでに独立し別居しています。
お父さんが亡くなってしまった時点で遺した財産は価値2,000万円の自宅、預金で2,000万円ありました。
遺言書がない場合、法定相続分通りに分けるとそれぞれ1/2ずつになります。

自宅配偶者が相続した場合、法定相続分通りに遺産を分割すると預金はすべて息子に行きます。
反対に配偶者預金を選択した場合、法定相続分通りに遺産を分割すると自宅息子に渡ります。

前者の場合配偶者は住む家を手に入れることは出来ますが、預金が相続できないため生活費に困る可能性が発生します。
後者の場合生活費は手に入りますが、自宅の名義は自分になりませんので、住み続けることができないのではないか? と思う方もいらっしゃるでしょう。
仮に親子仲がとてもよく、経済的にも息子が苦労していない場合「俺の分はいいから母さんが全部もらいなよ」と言ってくれればいいですが、現実問題としてなかなかそうはいかないケースが多いことでしょう。

また、預金が少ない下記のようなケースではどうなるでしょうか?

ケース②


 

自宅と預金をきれいに分けられた先ほどのケースと異なり、遺産総額2,200万円を1/2ずつにすると一人1,100万円を相続することになります。
しかし、すぐに動かせる預金は200万円しかありません。
預金を2人で分け、自宅を共同所有にすることで納得してくれれば良いですが、
息子が「自宅を売却して現金に変えよう」と言い出せば大いに揉めることは予想できます。

いずれのケースでも配偶者名義の預金が十分にあれば自宅を手放す必要はありませんが、そうでない場合、長年住み慣れた自宅を売却し、新しい住まいを見つける必要が出てきてしまいます。しかし、高齢になればなるほど賃貸住宅の契約はしづらくなってしまうのが一般的ですし、今まで住み慣れた自宅を離れるのは精神的な重荷となってしまうことでしょう。

そこで生まれたのが『配偶者居住権』という制度なのです。
再びケース①の場合を見て行きましょう。

配偶者居住権の例


 

※配偶者居住権の価値は、建物敷地の現在価値-負担付き所有権の価値=配偶者居住権の価値という計算で算出します。今回は分かりやすい例として自宅価値の半分としましたが、実際のケースとは異なる場合もあります。詳しくはお問い合わせください。

配偶者居住権をわかりやすく言い換えると、
「自宅の持ち主が亡くなる前から一緒に住んでいた配偶者は、自宅の権利(所有権)を相続しなくても定められた期間住んでいられる権利」となります。

そのため上図のように遺産分割を行うと、遺された配偶者は自宅に住み続ける権利を手にすることが出来ます。一方息子は負担付きではありますが自宅の所有権を手にすることが出来、それぞれ預金は半分ずつ相続することが出来るのです。結果的に遺産総額4,000万円をきれいに1/2ずつ相続する形となります。

配偶者居住権は口約束などではなく、登記簿に登記される事項ですので、途中でうやむやにされるといったことはありません。反対に登記を行わないと第三者に売却された際に対抗できなくなってしまうため、配偶者居住権を設定する際は必ず登記を行いましょう。

居住する期間についても基本的には「終身」となりますが、遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、または家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めがある場合は「任意に定めた期間」となりますので、一般的な場合一生住まいの心配をすることなく遺された配偶者は住み慣れた自宅に住み続けることが出来るというわけです。


配偶者居住権の注意点

注意点①遺贈

配偶者居住権を設定するためには遺言もしくは遺産分割協議で決定するのですが、注意することとして、遺言書へ書く際は「配偶者居住権を相続させる」ではなく、「配偶者居住権を遺贈する」と書きましょう。

これは配偶者居住権の取得について書かれた民法第1028条第1項第2号において、「配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき」と規定されているためです。
なぜ、遺贈なのか? ということですが、「相続」としてしまうと遺された配偶者が配偶者居住権の取得を拒否したい場合、相続放棄しかそれを実行する手段はありません。相続放棄ということは配偶者居住権だけ放棄したかったとしても、預金も含む一切の遺産相続を放棄することとなってしまいます。
反対に遺贈であれば配偶者居住権の「遺贈」を放棄し、その他の遺産を相続して取得することは可能です。


注意点②売却出来ない

配偶者居住権は売却も譲渡も出来ません。所有権とは異なり、住んでいられる権利ですので価値はありますが他人に譲ることは出来ないのです。
一方、所有者の許可があれば賃貸に出すことは可能です。
つまり一度設定してしまうと、一般的には配偶者が亡くなるまで権利は消滅しません。
仮に遺言書で期間を定めた配偶者居住権であっても更新や延長は出来ません。

例外として所有者との合意があれば途中で配偶者居住権を消滅させることは出来ます。
 
先ほどの例を元に解説すると、1,000万円の価値を母と息子の合意によって消滅させることになりますが、配偶者居住権にも価値はあります。売却も譲渡も出来ないものでも価値はありますので、両者の合意によって消滅させる場合母から息子への贈与とみなされ「贈与税」が発生してしまう可能性もありますので注意が必要です。



配偶者居住権を超高齢化社会で考える


「子どもは自宅を売ってお金に変えて財産をくれと言う。でも、私はこの家を離れたくない」
「遺された親に自宅の所有権が渡ったとしても、近い将来二次相続が発生した場合、再度の相続登記が必要になるのは手間も登記費用もかかる」

いずれもよくある話です。この問題を解決するために配偶者居住権はスタートしましたが、途中で権利を消滅させる必要が出てきた場合、先ほども解説したようにお金と時間がかかってしまう可能性は非常に高いと言えるでしょう。

「途中で消滅させる場合なんてあるの?」
と思った方。もし、遺された配偶者が時を経て施設に入居することになった場合、そこで発生するお金は誰が出しますか?

施設入居が決まった時点で配偶者に預金がほとんどない。子どもも財産に余裕がない。となれば、自宅を売却するもしくは担保に入れてお金を借りるという選択肢になってきますが、配偶者居住権が設定された負担付き所有権の家を買いたいという人は果たしているのでしょうか? 当然、先に述べた配偶者居住権を居住権者・所有者の合意によって消滅させた後でなければ売却もままならないでしょう。

さらに、両者の合意ということは両者ともに十分な判断力がある状態というのが原則です。もし、認知症等により施設入居する方に判断能力が無ければ、そもそも配偶者居住権を消滅させることは不可能です。

また、配偶者居住権を消滅させず所有者が借り入れを行おうとした場合でも、負担付き所有権は担保価値も低く設定されることが一般的ですので、そもそも借入自体難しい可能性も十分に考えられます。

本制度の理念自体は大変素晴らしいと個人的には考えますが、超高齢化社会を迎える我が国において、全ての方へおすすめできる制度であるとは言えないのではないかと思います。

・住み続けられることを権利として登記できる
・遺された配偶者に自宅以外に生活費も遺すことが出来る

本制度最大のメリットは上記2点にありますが、生活費を遺すことが出来るということは、子どもたちへ遺せるお金は少なくなり、住み続けられる権利は登記してしまうと売却も譲渡も出来ず、消滅させるにせよ簡単には出来ないというデメリットも存在するのです。


今回のまとめ


本制度は始まって間もない制度であるため、今後様々な問題も出てくることでしょう。
もちろん、メリット・デメリットを理解した上でバッチリ当てはまる方も存在するかもしれません。

しかし、現状ではご自身で安易な結論は出さずに、税理士や弁護士、私たち司法書士へご相談頂き、専門家の意見も取り入れたうえで判断していただくことを強くおススメいたします。
特に揉めることが予想できるケース(ご家族の仲がよろしくない、前妻との間にお子さんがいらっしゃる)などはより一層慎重な判断が求められます。

一番大切なことは配偶者の方が住み続けたいのか? というところでもあると思いますので、本制度の利用を検討される際には「こんな制度があるみたいだけどどう思う?」と聞いてみてはいかがでしょうか。
その際、専門的な知識・判断が必要な場合はいつでもお声がけいただければ幸いです。
一緒にベスト方法を探して行ければと思います。



本日も最後までお読みいただきありがとうございました。

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