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府中けやき共同事務所

2021/06/30

農地の相続

こんにちは!


以前、相続登記義務化の記事でも少しだけ触れましたが、今月は「農地の相続」について解説していこうと思います。
「農地」特有の注意点や実家の農地を管理できない場合の手段など、農地を相続する上で知っておいて損の無い知識ですので、ぜひ最後までお付き合いください。




農地とは?


農地には「農地法」という法律があることはあまり知られていないかもしれませんが、「農地法」によると「耕作の目的に供される土地」が農地となります。
つまり、人が住む土地とは法的にも厳密に区分けがされているというわけです。 
そのため、農地には勝手に住宅を建てることも出来ませんし、農家以外の方への売却も原則出来ません。

食料供給の根幹を担う土地であり、景観や自然を保護する土地でもあることからこのような制限がされていますが、いざ自身が相続で取得する立場になると「宅地」などとは異なり、制限があるせいで活用にも一定の縛りが生まれてしまいます。 そんな制限の多く存在する農地ですが、相続で取得したらまず何から始めたら良いのでしょうか? 詳しく見て行きましょう。 


農地を相続したらまずやること 



まず初めに行うことは相続登記です。相続登記が義務化されることは当ブログでもお伝えしている通りですので解説は省略しますが、農地の場合相続登記の次に行うべきこととして農業委員会への届け出も必要になります。

農業委員会とは原則各市町村に置かれている行政委員会であり、農地の売買や貸借・転用に対しての事務を行っている機関です。農業委員会への届け出は権利の取得を知った日から概ね10か月以内と定められており、届け出をしなかった場合は10万円以下の科料に処せられることもありますので、相続登記と同じく必ず行うようにしましょう。


相続した農地をどうするか? 



実家が大規模な農家を営んでおり、その事業を引き継いで自身も農家になる。という場合であれば特に問題はありませんが、
別の場所で生活の拠点を築いており、会社勤めもしている。という方であれば、農地を相続したとしてもその活用方法に困ってしまうケースは非常に多いと言えるでしょう。

活用に困るくらいなら相続放棄するという手段もありますが、故人の財産から農地だけを放棄するということは出来ません。相続放棄を行った場合はプラスの財産もマイナスの財産も放棄することになりますので、農地以外に現預金等の相続したい財産があったとしても相続することは出来ませんし、相続放棄は相続を知った時から3カ月以内に手続きを行わなければなりませんので時間との勝負にもなります。

「農家を継ぐ」もしくは「相続放棄」と限定的な選択肢以外にも、考えられる活用方法はいくつかありますので、一つずつご紹介します。


農地の売却



限定的な選択肢以外の方法として売却というものが上げられます。
確かに売却をすれば現金になりますし、農地の固定資産税からも逃れることが可能です。
しかし、農地の売却は思っているよりも簡単にはいきません。

先述の通り、農地は勝手に売買出来ない仕組みとなっており、買い手側にも下記のような要件が求められます。

①権利を取得しようとする者(またはその世帯員)がその取得するすべての農地について自ら耕作すると認められること
②法人の場合は、必ず農業生産法人であること
③権利を取得しようとする者(またはその世帯員)が農業経営に必要な農作業に常時従事すると認められること
④権利取得後の経営面積が北海道では2ha、都府県では 50a(都道府県知事が別段の面積を定めた地域については、その面積)以上であること
ただし、花卉栽培など施設園芸等の集約的な農業経営であると認められる場合は、この下限面積に達しなくてもよい。
⑤権利を取得しようとする者(またはその世帯員)の通作距離(居住地から取得しようとする農地までの距離)等からみて、その農地を効率的に利用すると認められること 
農林水産省HPより抜粋:https://www.maff.go.jp/hokuriku/keiei/pdf/nouchi.pdf

要件を見て頂ければわかる通り、すでに農家として営農している個人もしくは法人にしか農地を売却することは出来ません。また、農業が抱える問題として担い手の高齢化というものがございます。

担い手高齢化の影響を受け個人としての農家人口は減少している状況ですので、よほど条件のいい農地でないと買い手は中々現れないとも言われています。

以上のような事から農地の売却自体は不可能ではありませんが、手続きも複雑で買い手が現れるまでに時間がかかってしまう。または買い手が現れない場合もあるということをご認識ください。


農地を貸す



「売ることが難しいなら貸せばいい」と考える方もいらっしゃることでしょう。
確かに農業委員会を介すことで農地を貸すことは可能です。
耕作者と農地の利用権設定契約(賃貸借契約のようなものです)を締結することで、契約期間に応じて毎年賃料収入を得ることが出来ます。

ただし、固定資産税や土地改良区費といった農地を維持していくための費用は多くの場合で貸し手側が負担することになりますので注意が必要です。
土地改良区費とは地域での農地区画整理や農業用水くみ上げ等の事業を行うために必要な費用です。地域によっては土地改良区の無い農地も存在しますが、水田を中心に土地改良事業は地域農家の負担によって賄われてきた歴史もありますので、水田を相続することになりそうな場合は事前に土地改良区費が年間でいくらくらいかかるのか十分確認しておきましょう。

また、売却と同様に借り手側がすぐに見つからない場合も多くありますので、安易に「売れないなら貸せばいいや」と考えず、農業委員会を始めとした地域機関への相談を踏まえて決断されることをおススメいたします。


農地を転用する



一定の要件を満たせば農地を宅地等に転用することも可能です。農地のままでは売却することは難しいですが、宅地に転用されれば農地に比べ売却のハードルは下がりますし、地域によっては住宅を建て賃貸収入を得るという選択肢も存在します。

農地の転用は農業委員会の許可が必要になりますので、転用を検討されている方は農業委員会へ相談されると良いでしょう。

ただし、転用によって農地以外の種目になったとしても結局は「場所次第」で活用方法は限定されてきてしまうという面もございます。
比較的都市部の農地であれば転用の許可によって様々な活用方法があるのに対し、農村地域では例え転用の許可が下りたとしても採算の関係から活用方法は限られたものとなってしまうことでしょう。

農地の転用を検討されている方は、転用することによってその土地で何をしたいのか? を明確にし、収益シミュレーションを含む綿密な事前計画が重要です。


相続土地国家帰属法の活用



最後に紹介する活用方法として、国に渡すというものがあります。先月のブログでも触れましたが、「相続土地国家帰属法」という新しい法律が制定されました。

この制度を活用すると自身で管理することが難しい土地を10年分の管理費を前納することで国に引き取ってもらえる可能性があります。詳細は今後制定される政省令で規定が整備されていく予定ですが、現時点では次のような土地が引き受けられないとされています。

・建物や通常の管理又は処分を阻害する工作物等がある土地
・土壌汚染や埋設物がある土地
・崖がある土地
・境界が明確ではない土地
・権利関係に争いがある土地
・担保権等が設定されている土地
・通路など他人によって使用される土地
出典:法務局HP(http://www.moj.go.jp/content/001347356.pdf)

農地の場合、地方を中心に「境界が明確ではない土地」に該当しているケースも多く存在するようです。
隣接地の地権者が親戚同士で分家等を経てどこからどこまでが正確に自分の土地かわからないといった話はよく聞きますので注意する必要がありますね。

境界が明確でない場合は土地家屋調査士さんに依頼することになりますが、その際の費用は国が出してくれるわけではありませんし、何より国も無制限に土地を受け入れてくれるわけではありませんので、本制度はあくまで「最悪の場合こういう手段もある」という程度の認識で頂ければと思います。





今回のまとめ


最低限の管理を自身で行いながら農地を維持していく。
という手段もあるにはありますが、相続した農地が広大だった場合除草作業だけでかなりの労力を必要としますし、一人で行うことは現実的ではありません。 

農地を相続することになる前に、今回ご紹介した活用方法を参考にしてどのような手段で土地管理を行っていくのか? を相続人で相談しておく必要があると言えるでしょう。

また、可能であれば隣接農地の耕作者ともコミュニケーションを取っておけば、農地を「売却する」「賃貸する」という手段を取る際にもその方を頼ればスムーズに進む場合もあるのです。 先代から引き継いだ大切な財産が「負動産」となってしまわないよう、活用法については事前の綿密な計画がとても重要です。その際に活用方法を検討する前提として必要な登記の事でお困りのことがあれば我々専門家までお気軽にご相談ください

最後までお読みいただきありがとうございました。 



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